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河口から山頂へ 〜ランニングジャーニー・Zero to Summit〜Vol. 1 山梨篇その1

プロローグでもふれたように、Zero to Summit47は全国四十七都道府県の最高峰のうち、2018年3月現在一都八県の計九座を実施済みです。そのなかから、まずは日本最高峰の富士山をめざした山梨編からご覧ください。

 

この回はランと登山の両面において体力・気力・知力の総合力が問われ、悪天候のため実施を一週間延長したあとの、ラストチャンスにかけた二日間の戦いとなった。

 

100キロ+三千メートルの挑戦 〜相模川から富士山へ〜

言うまでもなく、山梨県最高峰は国内最高峰の富士山だ。その富士山の頂に降りおちた雨粒は、どこを経由して海へそそがれるのだろうか。実際にはすぐに地中ふかくに染みこみ、伏流水や湧水となって地上に出てくるので机上論でしかないのだが、これが意外と難しく、そしてまたおもしろい。

富士川ではないか──富士山と海をつなぐ川としてまずはこの名前が思い浮かぶだろう。しかし、どこをどうたどっても、この二つはつながらない。御坂山塊らが壁になって、一滴も海にとおさないのだ。

となると──そんなバカな、まさかの相模川か。箱根や丹沢の向こうから、富士川の倍以上の距離を走らなければならないというのか。まさに埼玉編と同じパターンではないか(2016年10月実施。富士川、笛吹川経由ではなく、荒川から三宝山をめざした)。

“Zero to Summit” (以下「ZtS」) の山梨編は、相模川(山梨県からは桂川)から富士山をめざすことになる。それに気づいたときはがく然としたが、同時にオイシイとも思った。相模川と富士山をつないで走ろうという企画は聞いたことがない。

1日目は平塚の相模川河口から富士吉田まで100キロを走り、2日目は高度差三千メートルを一気に登る。水平と垂直の挑戦。こんな遊びができるのは、日本では山梨県しかない。よし、これでいこう。がぜん、おもしろくなってきた。

出発前夜

21時すぎ、東海道線平塚駅着。もっと早く仕事を切り上げる予定だったのにすこし手間取ってしまった。駅前で大盛りパスタを胃につめ込んでから宿に向かう。しっかりと力強い雨が降っていて、早くも内側まで靴が濡れてしまった。明日の100キロ走を前に若干気が重くなる。朝には雨が上がる予報だが、さてどうか。

先週も雨だったため、一週間延期して迎えた今回。日に日に秋が深まり、初冠雪のカウントダウンがはじまった富士山は、今週がアタックのラストチャンスだろう。ランニングシューズの軽装では、雪の富士山には太刀打ちできない。計画段階では、予備日を含めて五日間のうち二日で走れば良し、つまり通しで実施しなくてもオーケーと考えていた。

しかし、日が近づくにつれ、考えが変わった。やはりこのコースは、いやこのコースだからこそ、二日間通しでやらなくてはならない。

そして迎えたこの週末。明日土曜は微妙な天候だが、日曜は晴れの予報。ここしかない。一日我慢すれば、最高のアタック日和になるだろう。不安はいくらでもある。何かが上手く噛み合わなければ、たちまち命の危険に冒されるかもしれない。

だからこそ、やりがいがある。この一ヶ月、ずっと不安との葛藤だった。それに克己してスタート地点まできた。もう迷いはない。一歩目を踏み出したら、あとはめざす一点を見据えて手足をふり続けるだけだ。

止まない雨音をききながら、雨が上がる時間を気にしつつ眠りについた。

 

 

【1日目】 平塚─富士吉田 105.7km

朝3時起床。ビルの合間から嫌な雨音が聞こえている。まだ数時間は降り止まない雨雲レーダーの予測に気持が奮い立たず、睡眠延長。4時に起き直し、5時にホテルを出る。相模川河口まで30分ほど歩き、途中のコンビニで不要な荷物を自宅に送り直し、相模川河口へ。小雨がそぼ降っているものの風は弱まってきた。

千石河岸に着くと、まだ薄暗い雨のなか、灯りの元に釣り人たちが集まっていた。まったく物好きな連中もいるものだ。ぼくには言われたくないか。

平塚漁港(新港)脇にある河口に到着。江ノ島が東の沖に浮かんでいる。護岸に打ち寄せる波にビビりつつ、腰が引けながらの情けないゼロタッチ。スタートにあたり、河口で必ず行なっている儀式である。これから走る河川へのご挨拶みたいなものだろうか。小雨で億劫なので写真は割愛。雨中のランニングは、いろんなことが投げやりになってしまう。

05:31 予定より1時間半遅れて相模川河口スタート。ひさしぶりの100キロ走だが、まぁなんとかなるだろう。

 

文・写真提供:二神浩晃

その2へつづく


“Zero to Summit 47” Vol. 1 山梨編 

実施日:2017年9月23日(土)~24日(日)

最高峰:富士山(剣ヶ峰)3,775.5m

ルート:相模川水系(相模川、桂川)

距 離:135.7km

 

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水流ランナー 二神浩晃(ふたがみひろあき)