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ゆうじんのスピード登山シリーズ【北鎌尾根1DAYスピード登山2014/8】その5

14371790_952330918211060_1517542749_n(往路表銀座1630頃)

無謀登山とリスクテイク登山

無事やり終えたこの北鎌尾根1DAYスピード登山、

多少なりとも波紋を呼ぶかもしれないとの懸念、こちらも現実のものとなった。

私情をはさむとすれば、詳細に書いた記録のリンクもしないで、

事実を歪曲した一方的な批判意見もあり、フェアじゃないなぁと思ったが、まあしょうがない。

それも覚悟のうえだ(笑)

おもな反対意見は、

「トレランスタイルで北鎌尾根」

「トレランシューズで岩稜帯」

「情報発信して人が真似したら責任とれるのか」

である。

ここは真摯に考察するとともに、自分の意見を書いてみようと思う。

 

まず、トレイルランのスタイルだが、自分自身は、80ℓザックにテントにシュラフという

スタイルで山をはじめ、そちらでの縦走スタイルの味わいも少なからず知っているし、

たまにやると新たな発見があってとても有意義このうえない。

そのいっぽうで数々の北ア1DAYスピード登山(簡単にいえばスカイランニング)をしてきたが、

その経験からこのスタイルでの登山をより好み、雨のツェルトビバークも試したりと、

リスク低減を図り現在進行形でやっている。

もちろん、装備やその他でまだまだ進化や改良の余地はあるだろう。

自分が必要最低限と思える荷物のみを持って、

自然の山などを縦横無尽に歩いたり走ったりと、

一般的なハイカーからは信じられないような速さで動き回るのは、

山を走るアクティビティ全般の共通項である。

ただしこれをやるには皆さんご存知のとおり、日々の体力増強のための

トレーニングが必要だったりする。

その結果、いわゆる身体という偉大な装備も、じつは携行していることになる。

前述したが、この内情は外見からはなかなか理解できないものだ。

実際に自分自身、週末登山をしていた頃よりも嫌々ながらもトレーニングは確実にしている(笑)

つまり、

“日頃のトレーニングが、山でのリスクヘッジをすでにしてくれている”

ことになるのだ

 

道具選びは様々な条件によって異なるし、経験に裏打ちされるだろう。

ソロでやってて一番リスキーだとおもうことは、落ちたり転んで動けなくなったとき

その場をどう凌ぐかである。

外傷や打撲はもちろんだが、私がもっとも怖れるのは低体温症だ。

山は夏でも気象条件によって一変する。

なので、ファストエイドキット以外に、ツェルトやサバイバルシート、

お守り代わりにジップロックで密閉しコンパクトにした

ダウンジャケットを携行することもある。

要するに、体力があって動いて熱量をあげられるうちはいいが、

問題は予期せず動けなくなったときだ。

あらゆる状況をイメージするのは大事だと思う。

とくに私は人一倍寒がりである。

ただしイメージがすぎて、ザックが80ℓになってしまっては、

本末転倒だろう(笑)

なんてすこしふざけてみたが、山は壮大で素晴らしい場所から天候の急変で一変し、

ときとして危険極まりない場所へ変貌するもの。

そんな危険な場所からいち早く退避できるこの軽量のスタイルは

とてもリスク低減を図れるし、また岩稜帯を登ることも、

軽荷のほうが動きやすく安全ことは自明の理であるがいかがだろうか。

また、補給物についても同様で、エナジーバー一つで山の中を

何時間も行動できる身体作りなんかも、日常のトレーニングの成果であるかもしれない。

そうやって荷物を減らし、最低限吟味した物だけをもっていくことは、

私は相当なリスク低減につながっていると思っている。

ちなみに私は、7-8時間の登山であれば、水だけで行動可能である。

いわゆる体脂肪を効率よく燃焼できる身体づくりを日常の食生活から

あれやこれやと試しているところである。

これはとくに今後が楽しみな実験である。

 

つぎにトレイルランニングシューズについて。

堅牢な登山靴にランニングシューズにトレイルシューズと様々な種類のものを履いてきたけど、

いまはソフトシャンク(ソールにプレート)が入った、

アッパーの丈夫なビブラムソールの軽量シューズを好んで、

岩場のおおい北アでは履いている。

よく北アの岩稜帯で重荷に登山靴のスタイルの方からは、

「そんなシューズで大丈夫ですか?」と言われることもあるが、

フリクション(摩擦、いわゆるグリップ)性は高く、

北穂滝谷や屏風岩などの垂直のクライミングをするならまだしも、

ジャンダルム、大キレットその他岩稜帯で散々試してきた結果、信頼に至っている。

とどのつまりは自分のモノにしているか、そこが大事だと思う。

また、岩にぶつければ軽量で薄い分痛いから、一歩一歩により集中することが、

またリスク低減につながるのだ。

現に知人で登山頻度も春夏秋冬40回/年間を超えるアルペンクライマーの方は、

場所によってはトレイルシューズを履いて岩稜帯に行くことからも、

その使い勝手の良さがうかがえよう。

再三言うが、自分がやる登山である。

業界がいう常識よりも、汗水たらして体得してきた自らの経験からの声が

一番大事ではなかろうか。

 

そして最後の、「情報発信して人が真似したら責任とれるのか」については、

少々デリケートな問題であるので、こちらも触れておきたい。

まず、一昔前とはまったく違う、SNSが隆盛をほこるネット時代で情報過多でもある現在。

玉石混交の膨大な情報から取捨選択すること、それを享受する受け手のリテラシーというものが

問われるのは、論を待たないだろう。

自分ごときがと、おおくの賢明な受け手の方たちに、

注意喚起をすることは高慢さと紙一重でもあるので

なるべく控えたいのが素直なところである。

ただし、必ず一定数の「浅はかな、勘違い」をする受け手がいることもまた否めない。

ネットにて散見される、”非常識なトレイルランナー”の記事をみるにつけ、

知っててマナーを外れるのはもちろんだが、自覚なしで業界のイメージを

損なう要因をつくることは極力なくしていかなければいけない。

(これはもちろん自分自身にも言えることである)

ゆえに、

「At your own risk」

それだけ書いて、

自らが運営する山岳情報WEB-TVや動画チャンネルその他で、

「影響力なんてないから…」と慎ましく発信することは、

ナンセンスでもあると最近は思っている。

つまり、前述のほんの数パーセントへ向けて、

敢えて注意喚起することは必要であると感じている。

「北鎌尾根は安易にやらないで」と。

それらを踏まえたうえで、情報発信をしていきたいと思う。

なぜなら、発信することは自己満足であるとともに、

多寡にかかわらず、話題性をもってして賛否の対象になるので、

良くも悪くも参考になるからだ。

こういうものは、発信せずに埋もれていては、なにも起こらないかわりに、

またなにも生まれはしないと思うから。

 

ルート&行程

-0100中房温泉登山口

-0250燕山荘

-0435大天井ヒュッテ

-0450貧乏沢入口(バリエーション開始)

-0610天上沢出合

-0635北鎌沢出合

-0805北鎌のコル

-0935独標

-1200槍ヶ岳山頂

-1530大天井ヒュッテ

-1730燕山荘

-1900中房登山口(延べ18h)

 

 

14365231_952330718211080_1521071309_n(貧乏沢0530頃)

おわりに

この登山からすでに約二年が経ったこのタイミングでなぜこの記事を?といえば、

いままた新たな北鎌尾根登山を考案中だからです。

自分の登山記録を書いて読んで記憶をよみがえらせることで、

当時の緊張や想いが鮮明にイメージできるものですね。

北鎌尾根はクラシカルで繊細なルートであるだけに、

自分にとっても他の1DAYスピード登山とは一線を画す特別なものでした。

トレーニングや下見をふくめた準備の段階で、

限りなく成功率を100%にするべく励んだわけですが、

ただ一つ、未知であるバリエーションルートへのソロでの挑戦は、

いまも畏怖の念を抱いています。

いまだに安易に近づけない神聖な場所、それが私にとっての北鎌尾根です。

それはなぜ?

おそらく、山業界における北鎌尾根の座標軸というものを

ことさら意識してのことだと思います。

人によっては、同じ登山をみても、簡単・難しいと印象が違うでしょう。

双方正しいでしょう。

大事なのはそれを自分がどう解釈するかだと思います。

本来、山は自由であるべきです。

もちろん自由であるには、守らなければならないこともあるはずです。

そんなところを、今後も自分なりの意見で発信していければと思います。

次回をどうぞお楽しみに!

※Youtubeにて、この登山の簡易動画公開してます。

また、

MtTV japan

で検索すると、様々なコンテンツが視聴可能ですのでぜひお願いします。

(おわり)


 

文・写真:田中ゆうじん
田中ゆうじん プロフィール

田中ゆうじん(たなかゆうじん)

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