(貧乏沢入口0450)
ムーンライトの表銀座から北鎌尾根へ
業界ではあの嵐のなかスタートしたTJARが話題をさらい、
仲間のチャレンジとゴールを見届けた数日後の8月某日決行。
家からクルマで1hとかからない中房登山口をAM1時スタートする。
足場の悪そうな貧乏沢は明るくなってから入りたいと思い、当初の0時より遅らす。
緊張?
「きょうも安全に登山させてもらって、お天道さんありがと」を
いつもの10倍は言っただろうか(笑)
燕山荘からの表銀座は予報どおり西風が強いが、
もうすこし月齢が若ければヘッデンなしで走れるほどの月明かりだ。
右斜め前方には厳かに座するきょうの核心部の山影を横目に、
かといって左眼下の街並みには一抹の郷愁を感じつつも、
ムーン&スターライトな天空のプロムナードを独り占め。
これだから登山はいい。いや真面目にイイよ…。
ちなみに登山という言葉、なんだか古臭くて保守的な響きがあって
いっとき敬遠していたが、いまは好き好んで使う言葉だ。
1DAY MIXスピード登山、なかなかいい響きじゃないだろうか?
大天井岳直下の切通岩の狭いコルではビバーク者を確認。
西側の巻き道をすすむと、ときおり落ちる乾いた岩なだれの響きが、
静寂さを不気味に引き立たす。
そんな岩場をこなすとほどなくして大天井ヒュッテ。
さらに止まらずに10数分すすむとひっそりとある貧乏沢の入り口に到着。
(ちなみに、試走時は見逃して赤岩岳てまえまで行く)
ここまでは序章、ここからがいよいよ今日の核心であるバリエーションルートのスタートだ。
ドンピシャの日の出に悦に入る。お日様をみるとやはりやる気がみなぎるってもの。
ただし油断はやはり禁物で、荒れた下りはわりと得意としていながらも、
水量がおおく浮石だらけのこの沢では二度こける。
一度はステップ不明瞭の藪でヘッドスライディングという痛恨!
なるほどバリエーションルートは登山道とは一味違う。
しかしこれが良かった。おとこは再び謙虚さを取り戻すのだった。
その後、天上沢の冷たい渡渉をなんどか繰り返し、北鎌沢の出合を経て、
イメージよりもはるかに急登で危険な右俣を標高差約900m詰め、
まずは無事に北鎌のコルに辿りついた。
この右俣、支流があり迷いやすいとも聞いていたが、地図のとおり沢筋をコル
(稜線上の窪んだポイント。鞍部とも)目指して道筋をつければ順当に行けた。
しかし、草付きだが標高を上げるにつれ急斜面甚だしく、高度感十分で肝を冷やした。
現に同シーズン中、滑落死亡事故が起きていた。
沢では水を補充した。
歩きずらい貧乏沢といい、急登の右俣といい、いまのが核心じゃないか?
と反芻しきり。
孤独ゆえに自問自答の連続…。北鎌のコルではホッと一息、蒸しパンを食べる。
その後天狗の腰かけにむかう途中に右スネを痛打。
7部丈のタイツじゃなくとも出血したであろう外傷だった。
それでもなるべく露出は避けたほうがよい、そう思った。
絆創膏を2枚貼って続行する。途中、2名の登山者と出会う。
まず大きな目標である独標を目指した。その先の槍の穂先は相変わらず雲のなかで、
この日はまだ一度も見ることはできていなかった。
(つづく)
文・写真:田中ゆうじん
田中ゆうじん プロフィール
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