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アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その6

そんなこんなで無事に怪我なくリザルトを残し、その時点で出来ることはやり切ったと思う。

夕方になり日が落ちた頃、リードの決勝が始まる。

日が落ちる前にルートセッターがファイナルラウンドで使用する空中戦に向けたセッティングをしていた。

クレーンに大きなキューブをロープで固定し、その上からガムテープを貼るという、何とも斬新な(!?)スタイルでテキパキと準備していた。ハッキリ言って「大丈夫なの?コレ?」と聞いてしまいそうなシンプルさ。

今回のメインルートセッター、韓国のキムさんは「大丈夫だっ!!」と一緒に仕事をするロシア人ルートセッターと私に力説してくれる。もはやただの酔っぱらいのおっさんが「大丈夫っ!」を連呼しているようにしか見えない。

それでも、彼らもまたとてつもないプロフェッショナルなのだ。

 

雨とも雪とも言えない、みぞれの様な冷たいものが降りしきる中で決勝ラウンドを観戦した。

男子はロシアのプロフォトグラファーが、女子は韓国のプロクライマーが優勝した。

どちらも完璧な登りで、まだまだ自分には足りないものがあると心底感じた。一通りセレモニーが行なわれ、そのまま皆でアフターパーティーだっ!と行きたいところではあるが…

今回我々は非常にタイトなスケジュールの為、ホテルに戻って荷造りに取り掛からなければならない。ギハードさんが最寄りの空港からの出発時刻が朝の07:00頃。空港までは車で約1時間。一緒に行くしかないのだ。

会場からホテルに戻ってきたのはやっぱり夜の21:00を過ぎてから。またしてもほとんど眠らずに移動開始。

日が昇る前にギハードさんを空港へドロップ。そしてNさんと共にまたアルバカーキへ向けて3時間ほどドライブ。帰路では絶対にミスなしで帰りたい。そもそもミスのしようがない乗り換え時間の長さ。

帰路の行程はこうだ。

アルバカーキ12:00頃出発→ソルトレイク→6時間待ち→セントポール(夜中の0時頃到着)→10時間待ち→羽田着。

誰もいないようなセントポール空港の椅子の上で寝落ちを繰り返しながら次の飛行機をひたすら待つ。6日間の行程で、ベッドで寝たのはたった2晩。空港で2晩、飛行機で1晩のバックパッカー並みスケジュール。実はこの時にどうやら風邪を引いたらしく、クリスマスと年末年始は酷い風邪に悩まされ続け、年始から5連戦というのに1月6日に中国戦に出発する日も風邪が治らず具合の悪いまま綺麗な空気とは言い難い北京へ。09:30羽田発の飛行機に乗るために05:00に起床。

寝不足Maxで空港へ。中国は私にとって約10年振りに訪れる国。

10年前のあまり良くないイメージが一掃される様な出来事が起きるといいな。と思いながらW杯初開催の中国は未体験ゾーンだから色々心配事が多い。

とりあえず、風邪ひき主婦は油分の多い食事は控えたい。そうなると中国だけあって食べるものあるのかな?などとくだらない事を考えてしまう。でも、中国のスーパーマーケットは不思議なものが多いからそれを楽しみに頑張ろうとか、中国3000年だか4000年だかの歴史のお陰で風邪が治ったりするかもしれないとか妄想して、自分の心配や不安を揉み消そうと飛行機の中で躍起になってみる。隣に座っている、又しても同じ飛行機の同じ列になったNさんに笑われるんじゃないかとビクビクしながら…。

そんな妄想を繰り返しているうちに北京に到着。

空港ではSさん、ギハードさんと合流して4人の日本チームとなった我々を中国のホストしてくれる方が車でお迎え。ここは流石に初開催だからPick UPなどは比較的しっかりしていてホッした。

薄く黄色味がかった空を眺めながら小一時間程車に乗って北京の登山学校のようなコンビニもスーパーもない僻地に連行されコンペ会場兼宿泊施設に到着。もはや雰囲気はナショナル合宿。

お日様がある間に敷地内と会場を散策すると・・・

アイススケートが出来そうなとてつもなく大きい凍った池(?)を発見!!

Nさんと暫しはしゃぎにはしゃぎまくる。

中国戦のスケジュール自体はそれほど窮屈ではないので、翌日のお昼前から始まるテクニカルミーティングとその後の予選に備えれば大丈夫。

とっとと寝て、ゆっくり起きる、のんびり主婦には有難いスケジュールなのでした。

 

 

(つづく)

(文・写真、動画提供:八木名恵)

 

※この文章は八木名恵の主観であり、クライミングに対する意見ではありません。八木名恵はコンペティターであり、山岳全般の専門家ではありません。アウトドアアクティビティーを楽しまれる際は専門家の意見を参考にして頂き、安全やマナーに十分配慮して無理のない計画をお願い致します。

その1はコチラ↓

アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その1

その2はコチラ↓

アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その2

その3はコチラ↓

アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その3

その4はコチラ↓

アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その4

その5はコチラ↓

アイスクライマーズ・エッセイ 〜八木名恵の氷壁アックスボンバー〜 その5

 

八木名恵プロフィール

プロアイスクライマー八木名恵(やぎなえ)