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探検家 関野吉晴のグレートジャーニー大放談 その2

人類がアフリカに誕生してユーラシア大陸〜アメリカ大陸にまで拡散していった約5万3千キロの行程を人力のみで辿る旅「グレートジャーニー」。

そして日本列島に人が渡ってきたと言われる足跡をたどる「新グレートジャーニー」。

そんな偉大なチャレンジを成し遂げてこられた探検家・関野吉晴さん

今回は手作りの道具でつくった手作りの船で人力でインドネシアから石垣島までの航海である「新グレートジャーニー」の海のルートの様子を描いたドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」の公開時に雑談インタビューさせていただいた新シリーズの第二回。

(ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」予告編)

プロジェクトのチームビルディングについて、現場で実際自分の目で見て体験して伝えるという一次情報の大切さなどを語っていただきました。

(文:池ノ谷英郎、山本喜昭 / 写真:池ノ谷英郎)


 

山本>

実際、参加してくれるインドネシアの人たちはどうやって見つけてきたんですか?

 

関野>

その前に重要なのは船造りだったので、クルーはそんなに急がなかったんです。

 

山本>

なるほど、船を作りながらクルーを集めてくる感じですね。

 

関野>

でも、ほとんどの人にバカにされましたね。

僕らが「道具はこれだけで作りたい」って言ったら、

彼らはもう電動のこぎりや電動ドリルとかを普通に使っているわけですよ。

そんな、斧とかノミとかナタとかで船を作れるわけないじゃないかって。

日本人だろ?先端技術を持っているのになんでそんなことをするんだ? って感じで、笑われたり話にならなかったり。

 

山本>

インドネシアの人たちもそんな作り方はたぶん親の世代でもしていないですよね。

 

関野>

かつてはしていたんですけどね。

そんな中、1人だけ「ちょっとやってみようか!」って言う人がいて…

 

山本>

「面白い!」と(笑)

 

関野>

面白いし、「俺も(航海に)行きたい」って言うんですね。

結局最後は下りちゃったんですけど。

船を作る人と行く人が同じだったらいい加減なものは作れないじゃないですか。

これはいいなって思ったんです。

その人とは別に何人か候補を探してもいて、2人だけ積極的に行きたいというやつが現れたんですよ。最終的に残ったのはその仲間たちでしたね。

6人のうち5人はマグロ漁師だったんですけど、1人だけ木こりだったんです。

彼は船を作る時に木を探してくれて、木を切って、のこぎりを使わないで斧とナタとノミと手斧(チョウナ)だけで板を作っちゃうんです。

それもキレイな板を。

僕はその彼を航海に連れて行きたいと思ったら、彼も行きたいと言ってくれたんです。

でも、他のクルーたちは「海を知らないやつが行ってどうするんだ?!」って猛反対だったんです。

 

山本>

漁師じゃない、木こりを海に連れて行ってどうする、ってことですね。

 

関野>

周りからは徹底的に反対されたんですけど、彼、徹底的に「行きます!」って言って(笑)

出発してからも「何でこいつを連れて行くんだ?」って感じだったんですね。

でも仲間はずれにはされないんです。みんなすごくシャイな人たちなんで(笑)

 

山本>

それを関野さんに言ってくるんですか?

 

関野>

遠まわしに言ってきますね。若いクルーが2人いるんですけど、その2人を通して言ってくる感じですね。

 

山本>

航海のチーム・ビルディングは結構大変だったんじゃないですか?

 

関野>

2人は決まったけど、あとは結局ね、親とか奥さんに反対されたらもう無理ですね。

30~40歳の男たちは家族の大黒柱ですからね。

彼が不在にする間の家族の生活を守らないといけないし、だからといって彼らには高額なギャラを与えちゃうことで周囲からそのために参加すると思われても困る。

結局は、普段漁師をやっている時に得る収入分くらいをフォローしました。

で、事故があったら困るから保険に入ろうとしたんですけど、「保険って何?」って言われました(笑)

 

山本>

漁師の村では保険が無いんですか?

 

関野>

インドネシアに保険会社はあるのですが、保険事態を漁師たちは知らなかったんです。

普段入る必要が無いというか、要するに彼らは老後の心配はしていないんですね。

子供とか兄弟とか孫とか誰かが面倒を見るんです。

 

山本>

社会として助け合うってことなんですね。

 

関野>

社会でも障碍者やお年寄りを支える仕組みができているんです。

 

山本>

それだったら保険はいらないですよね。

 

関野>

逆に言うと、大黒柱を失うことのダメージは大きいのでそれで反対されて諦めた人は結構います。

 

山本>

ある意味、強いコミュニティーの良いところと悪いところと言うか…

 

関野>

良し悪しと言うか、それは彼らにとっては当たり前ですからね。

 

山本>

でも関野さんがやろうとしていることに彼ら(参加してくれたクルーたちと家族)は共感してくれたんですね。

 

関野>

そうですね。

1台は丸木舟で世界で1隻しかない6.8mの船なんですけど、もう1台は11mの船で彼らマンダラ人の伝統船なんです。

今はもう作っていなくて走ってもいないんですけど、それを復元したんです。

だから彼らにとってはそれがうれしいし誇りなんですね。

これで海に出るってことが。でもいろいろ言われてね。

「こんなボロ船で行けるわけない、エンジンも付けずに」とか、みんな反対したり嫌味を言われたり、ひどいのは「日本で売られちゃうぞ」みたいに言われたり(笑)

 

山本>

騙されてるぞ!みたいな(笑)

 

関野>

1年目は脱走事件とかあったんですけど、

 

山本>

そういうのもあったんですか(笑)

 

関野>

ホームシックになっちゃったりね。あと鬱になったり。いろいろあったね。

 

山本>

電話が唯一の娯楽みたいなものだっておっしゃってましたよね。

 

関野>

ま、唯一では無いですけどね。

彼らも歌を歌ったり民族の遊びをしたりしています。

日本の囲碁将棋みたいなものですね。あと、結構彼らは酒を飲むんですよ。

イスラム教徒だけど(笑)

 

山本>

そうなんですね(笑)

 

関野>

家では絶対飲まないんです(笑)

村を出ると結構飲むんです。日本にいたイラン人とかもそうでしたね。

本国に帰ると飲まないんです。

 

山本>

グレートジャーニーでいろんな所を旅している中での発見なわけですね。

 

関野>

そうですね。

イランとかスーダンとかは国の名前にイスラムの名前が入っていますからね。

イランなら「イラン・イスラム共和国(Islamic Republic of Iran)」と言って、イスラムに則って治める国なんです。

すごく厳格なんですけど、飛行機に乗るとワインにビール入れて飲んだりしているんです。

客室乗務員に言ってガバガバ飲んでいるんです。

飛行機を降りたらもう飲めないから(笑)

インドネシアとかマレーシアは最初はヒンドゥー教だったんですけど、やがてイスラム教がやってきて、ヒンドゥー教がどんどん狭まって今はバリ島だけになったんです。

イスラム教は本来一神教ですから他の神様なんてあってはいけないんです。

ところが彼らはまず木を切る時、木に手を合わせてむにゃむにゃ何か言うんです。

「何やっているの?」って聞くと、「木には精霊がいて他の木に移ってもらうんだ」って言うんですね。

そんなのイスラム教で許されるわけないんです。

彼らの中では海の精霊や森の精霊もいるんです。

そういうのも許さないとたぶんイスラム教が広まらなかったんだと思います。

 

山本>

布教する段階でってことですね。

その土地の文化や風習を残しつつなんでしょうね。

 

関野>

それは中南米でもそうなんです。

「何か宗教はあるの?」って聞くと「カトリックだよ」って答えるんですけど、彼らも実際のカトリックの行事に合わせて自分たちが育てたジャガイモの収穫祭とかををやったり家畜の繁殖を祝う儀式とかをやっているんですね。

で、誰に対してお願いしているかというと、山の神様とか大地の神様なんです。

そういうのを許さないと広がらなかったと思うんです。

 

山本>

そういうものなんですね~。興味深いです。

 

関野>

グアテマラなんてもっとすごいですよ。

カトリックの大きな教会の中でアニミズムやっているんですよ。

香を焚いて(笑)

 

山本>

へぇ~

 

関野>

それを許しちゃってるんです。

 

山本>

そこには神父さんもいるわけですもんね。

 

関野>

「やめろ!」とか言ったら「じゃ、やめようかな。カトリックも」ってなっちゃったり(笑)

 

山本>

それはご自身の足で行かれている関野さんならではのエピソードですね。

 

関野>

戦地に行くジャーナリストもそうですけど、いわゆる大本営発表や警察や官邸が発表している情報だけじゃ何も分からないですし、ほとんどいいかげんですからね。

だから自分の足で歩いて、自分の目で見て聞いて、自分で考えて、そして書く、ということが大事なんです。

 

山本>

そういう風に思われるようになったのは…昔からなんですか?

 

関野>

面白いから行っているんだけど、やっぱり伝えなきゃいけないというのはあります。特に今回の映画上映の際のトークイベントでもフォトジャーナリストの方に来てもらうことが多いんだけど、彼らは使命感を持ってやっていて、戦場に行っても若い頃は最前線に行くんだけど、ある程度経験を積むとそこに住んでいる一般市民たちに関心を持つようになる。

そういう人たちは何にも関係ないのに痛い目に遭ったり犠牲になったりする。

なおかつ発表する場も無い。

声なき声を集めて知らせる、市民たちはこんな目に遭っているとか、こんなことを考えているとかって言うのは、大本営発表じゃ分からないんです。

 

山本>

分からないですよね。

 

関野>

こういうことをしていると僕もたまたま戦場に入っちゃうこともあるんだけど、そこに住む先住民たちの声なき声を代わりに伝えたいんですよね。ただ、悪い面ばかりじゃなくて、日本人が見て「いいな、こういうの」っていうようなのも伝えます。

 

(その3につづく)


その1はコチラ↓

探検家 関野吉晴のグレートジャーニー大放談 その1

 

関野吉晴さんのプロフィール

探検家 関野吉晴(せきのよしはる)