冬季極北カナダの3つの湖と凍結したIce roadをつないで極地冒険の聖地レゾリュートへの自力到達を目指す4年越しの壮大な冒険にまもなく出発される若き冒険家、関口裕樹さん。(1年目の今回は2/7にご出発予定だそう)
その関口さんにこれまでを振り返りつつ、今後の冒険についてなどガシガシ雑談しました。
関口さんの冒険計画概要はコチラです。
http://ameblo.jp/timl40000k/entry-12147390552.html
第一回目は冒険を日常に?!するための極地トレーニングについてなど。
では、はじまりはじまり。
(文:池ノ谷英郎、山本喜昭 / 写真:関口裕樹、池ノ谷英郎)
山本>
さっそくですが、前回の北極の冒険の概要を聞かせてくださいますか。
(PC画面の地図を見ながら)今回僕が行ったのはタクトヤクタックという通称タックと呼ばれている村だったんですけど、この村をベースにしていました。
2月中旬にこのタックに入ったんですけど、村で数日準備をして、まず第1次歩行、トレーニング的な歩行として、この黄色線の所を往復で50㎞くらい歩きました。
山本>
50㎞というのは25㎞ずつ往復で50㎞ということですか?
関口>
そうですね。
山本>
その25㎞先に何かランドマーク的なものがあるんですか?村とか?
関口>
いや、もうこの辺はこのタックを出ちゃうとほとんど何も無いんです。
地図上では名前が付いている岬とかもあるんですけど、名前だけみたいな感じで無人の場所です。
タックを離れると実際に完全無人なんですが、夏場に使うと思われるキャビン(添付写真)や途中通過した小さな岬に灯台が僅かにですがありました。(もちろん冬場は誰もいませんが)
山本>
なるほど。
関口>
とりあえず短期歩行でトレーニング的に4日、片道2日くらいで行けるところという感じですね。
山本>
そういうことなんですね。
距離は歩いている時間と距離で計算するんですか?
それともGPSとか持っているんですか?
関口>
GPSは持って行きますね。
1日歩き終わった後に距離を測ったりします。
で、この短期歩行で装備の見直しをしました。
山本>
本番にむけてのチェックをするんですね。
関口>
そうですね。
トレーニングと装備のチェックも短期歩行の目的なので、歩いてみて分かった問題点などを村に戻って修正したりしています。
山本>
その村では資材の調達が出来たりするんですか?
関口>
ここに限らず北極の村ってこじんまりしているけど何でも揃うんですよ。
へぇ~。
関口>
スーパーに行けばなんでも…フルーツもあるし、ジュースやポテトチップスもあったりします。
山本>
そうなんですね!
関口>
あまりに専門的なアウトドア製品とかは無いので日本から持っていく必要はありますけど、日常生活に必要なものはだいたい揃いますね。
値段が高い、というのはあるんですけどだいたい揃います。
山本>
その片道25㎞往復50㎞というのも海上歩行なんですか?
関口>
そうですね。
今回はそもそもトレーニング的な意味合いの遠征だったので、この50㎞だけでなくて。
山本>
全体がトレーニングということですね?
関口>
今まで何度か北極圏には入っているんですけど、その時に歩いているのはアラスカの大地だったり、川の上だったりなんです。
将来的には北極海の上で冒険をしたいなと思っているので、まだ経験が無い海氷上の冒険のスキルを積むためのトレーニング的な遠征をしたんです。
山本>
なるほど。
関口>
このトレーニング的な遠征に1シーズン1年を費やすことに関して、見方によっては遠回りかなというのもあるんですけど、アウトドアプロモーターの大木ハカセさんからは「トレーニングは必要だけど、お前はもうその段階じゃないだろ」と…
山本>
「とにかく行け!」と。
関口>
はい、そういうありがたい激励というかお叱りをいただきまして(笑)
山本>
お叱りですか(笑)
関口>
自分の中でトレーニング的な遠征に踏み切った理由のひとつにスキルを得たいというのはあったんですけど、たとえば植村直己さんは北極圏12,000㎞や極点踏破やグリーンランド縦断をやってますが、北極での活動の一番初めの頃は北極のグリーンランドの方の村に住んでいたんですよ。
ただ住んでいたというと違うかもしれないけど、いきなり行って大冒険に出るのではなくて、村に住んで現地の人から生活技術を学んだりして、その土台があっての大冒険だと思っているんですね。
たとえば荻田泰永さんや大場満郎さん、田中幹也さんといった冒険家の皆さんの記録をさかのぼると、やはり初年度にトレーニング的な遠征をしていたんです。
実際はいろんなハプニングや準備不足などトラブルがあってトレーニング的になってしまった、というような側面もあったりするんですけど、やはりそういう段階を踏んでその後の偉大な冒険が生まれているんです。
山本>
なるほど。
関口>
一発なにか(冒険を)やって終わらせるだけだったら別に良いのかもしれないんですけど、今後も長期的に北極メインに、言ってみれば生涯をかけて北極冒険をしたいなという思いがあったので、今回トレーニング的な遠征に踏み切ったんです。
海の上を歩くというのも初めての経験でしたし。
山本>
どんな気持ちだったんですか?海の上を初めて歩いた時は。
関口>
いやぁ~うれしかったですね~。
山本>
やはり凍っている川と海では感覚が違うものですか?
関口>
感覚的には割とフラットな氷だったので歩くのに技術的な差は無いのですが、やはり気持ちの上で違う面がありましたね。
山本>
「やっとここまで来た」という感じですか?
そうですね、やはりずっと目指してきたところでしたので。
氷が安定しているところは楽に歩けるんですけど、海流の流れによって起こるリード(氷の割れ目)とか積み上がって起こる乱氷とかがあったりするので、その辺が海ならではの難しさでしたね。
山本
>海の上の様子は先輩たちから聞いたり本を読んだりして知識としてはご存知なわけじゃないですか。
実際にその場で乱氷やリードに対峙した時はどんな気持ちでしたか?
関口>
山本さんがおっしゃったように技術的なことは頭では分かっていたんですね。
でもそれは知識として、頭で中で考えた机上だけのものだったんですね。
今回の目的はまさにそれで、とにかく体験したかったんです。
知識として知っていても体験しないと分からないことが多いので、それをしっかり体験したいなと。
それを体験した感想としては、本当に感覚的なことになっちゃうんですけど、「ああ、こういうことなのか」という感じでしたね。
山本>
「なるほど、こういうことか!」って?
関口>
はい。
これはもう体験しないと分からない、机の前で何十時間勉強しても得られない感覚ですね。
逆に言えば一度現場に行って自分がつらい思いを経験すれば文字通り身をもって経験できる、ということです。
山本>
やっぱりつらかったですか?
関口>
そうですね。
ですが、短期歩行が終わって一度村に戻ってからメインの歩行として2月末から3月末まで400kmほど、数字的に言うと最初の4日間で50㎞、その後30日間で400㎞の計450㎞を歩いたんですけど、正直このルートはそんなに厳しいものではないので極限状態だったというわけではないです。
400kmを30日で歩いたんですけど、歩くだけならもっと速くいくことは出来たんですね。
今回はこの岬をとりあえずの目標地点にしていたんですけど(地図を見ながら)、これはあくまで場所としての目標で、自分の中ではしっかり歩くスキルを身に着けたいというのと30日間を完全に自力で生き抜こうというのがあったので、なので時間をかけてじっくり歩いたんです。
山本>
なるほど。
関口>
この遠征はトレーニングとして捉えていたので場所とか距離にはそれほどこだわっていなかったんですね。
極端なことを言うと別に1歩もあるかなくてもいいくらいで、とにかく北極海という場所にいてそこに慣れることが出来れば。
山本>
いかにその30日という時間を過ごせるか、ということですね?
関口>
一般の人から見れば北極海の上って異空間じゃないですか。それを異空間ではなくしたかったんですよ。
山本>
それを日常にしたかったと。
関口>
そうです。
なのでただそこで日常を過ごすだけでも良かったんです。
距離とか時間とか結果にはあまりこだわらなかったので、その分、内容を濃くすることが出来た、この場所に深く入り込むことが出来たな、という感じはありましたね。
山本>
その「結果にこだわらず深く入り込めた」というのをもう少し詳しく聴いてもいいですか。
距離だけ稼ごうと思えばそれは出来ると思うんですよ。
たぶん世間的には「1,000km歩きました」とか言う方がウケるんでしょうけど、それだけだと中身が薄くなってしまう気がして。北極に限らず数字が先に来ると冒険的ではなくなると思っているんですよ。8,000m峰だから登るとか百名山だから登るというのではなく、「あの山に登ってみたいな」と思って登って後で調べたらそれが百名山の一つだったとかいう方がいいな、と。クライミングだったらグレードを追い求め過ぎたり、冒険だったら距離を追い求め過ぎたり、ということになるとあまり冒険的ではなくなるし、いつかは息詰まってしまうと思うんですよね。
山本>
興味深いですね。
距離とかグレードとかにこだわるのもすごいチャレンジじゃないですか。
でも、それを誰かが達成した瞬間に追い越されるわけじゃないですか、それを追い求めていると。
そうではない、ということですよね。
関口>
そうですね。
(その2へつづく)
本シリーズは文中に多数の冒険家や登山家の方々のお名前が登場しますが、ご興味ある人はぜひご自身で調べてみてくださいね。
関口さんのプロフィールはコチラ。