世界157カ国の自転車の旅から帰国された
サイクリストの小口良平さん。
先日は帰国したばかりの小口さんと椎名誠さんの作品などで
おなじみの犀門にて祝杯をあげたばかりです。
その小口さんの 旅の手記の第三弾です。
小口さん活字中毒らしいです。
イランの首都テヘランに到着しました。
敬虔なイスラム教徒の多いマシュハドと違い、
カラフルでファッショナブルなノルサーリー(民族衣装)
をまとっている女性が多いのが印 象的で興味深いです。
マシュハドからテヘランまで約900kmありましたが、
トルクメニスタンで鍛えられた走行感が手伝って4日で走りきれました。
3日目には1日で272km走れました。
トルクメニスタンからイランのテヘランまで約1600km、
8日で走ったことになります。
活字中毒者である私は現在、本を25冊、
5kgの重さを運んでいます。
そんな重さのハンデをものともせず。
人間、「慣れ」となれば何でも出来るもんですね。
イスラム圏であるイランは現在ラマダン(断食)中です。
それもあと3日で終わります。
ラマダン後は断食を祝うお祭りがあるそうです。
ラマダンを全くしてない私ですが、楽しみです。
マシュハドからテヘランまでの砂漠ルートで、
集落全体がラマダンをしていて水と食料が手に入れられず、
予期していなかった無補給地帯 130kmとなり、
喉カラカラ、命からがらになったのもラマダンのいい思い出です。
ラマダンだけではなくイランにはとても深い深い思い出が出来きました。
トルクメニスタンでは出国間際に集団窃盗団に遭いました。
イランでは、テヘランより70km南西の小さな町で強盗に遭いました。
つい9日前に窃盗にあったばかりなのに、再びです。
自転車で走行中に声をかけられて立ち止まりました。
彼の勧めで2かけらメロンを頂きました。
食後に彼が指先をこすりお金を要求してきました。
「冗談でしょ!」
と軽くかわすと、なぜか私の股間を触ってきました。
布団を指差してきたので、何がしたいのかは分かりましたが、
もちろん受ける気はありません。
気味が悪いのでメロンのお礼だけ言ってその場を早々に立ち去りました。
すると彼がついてきて、「GoodGye」と言ってきましたので、
こちらも安心して握手をしてそれに答えました。
そのときです。
握手をしたその手で顔面にパンチをもらいました。
来るとわかっていても自転車にまたがっていると、
キレイにもらってしまうものですね。
ヘルメットのサンバイザーが吹っ飛び、その場に転倒しました。
運よくサングラスがガードとなったので、目には異常もなく、
鼻も折れませんでした(病院に行ってないのでわかりませんが・・・)。
しかしサングラスが破損し、サングラスの鼻受けの部分が
皮膚に食い込み出血しました。
目の前がパチパチと目くらましになっている間に、
またしても貴重品を取っていかれました。
慌てて追いかけるも、その貴重品は第三者に渡されたようで見当たりません。
その強盗は追いかけて羽交い絞めにして取り押さえました。
近くの人に警察を呼んでもらい、その強盗犯を警察に突き出しました。
彼は手錠をされ、警官に殴られ、留置所に入れられました。
イスラム式の「目には目を」なのでしょうか。
失った貴重品は見つかりません。
どうやらその男は痴呆症なのか、警官が頭を指して
クルクルパーのジェスチャーをしていました。
進展のないままで埒があかないので、失った貴重品はあきらめ、
次の展開、保険請求のためのポリスレポートを書いてもらいました。
英語ではなくペルシャ語なので、保険がきくかどうかは不安ですが…
その日は陽もすっかり暮れてしまったので、警察署で日没後の
ラマダン流の夕食を一緒にさせてもらい、モスク(イスラム寺院)
に泊めさせてもら いま した.
話はこれで終わってくれれば良かったのですが、
不幸は螺旋階段のように続くものですね。
ラマダン式の朝食をAM4:00に頂き、日の上がる6:00過ぎに
テヘランに向かって出発しました。
スタートして2kmも走らない場所で、5m先のタクシーがバックをしてきました。
中央、中東アジアのバックはただのバックではありません。
彼らのバックは時速40km、フルにペダルを踏み込むのです。
「あっ!」
と思ったのとほぼ同時くらいに私の体は宙を舞っていました。
たかがバックでもこれほどまでに凄まじい衝撃だとは思いませんでした。
バックしてきた車で重傷もあり得るのがアジアなんです。
体を地面に打ち付け、数秒間ブラックアウト(一時的気絶)し、
何が何だかわかりませんが、車から降りてきたタクシー運転手と
おそらく乗客らし き人 に抱えられ、道の端に寄せられました。
痛みで苦悶していると、エンジン音がしました。
まさかとは思い、目を開けてみるとタクシーが遠のいていくではありませんか。
「車を後続車の邪魔にならないようにちょっと移動させるだけだよなー」
なんて甘い考えを少しでも考えた自分が馬鹿でした。
「ひき逃げ天国!」
頭から突如浮かんだ言葉です。
以前のインドではね逃げされた経験も、今回またいかせず。
悶絶していたのでタクシーの運転手の顔も見ていません。
ただ遠のく黄色いベンツ風タクシーの後ろ姿しか覚えていません。
ナンバープレートもペルシャ語で書いてあるため暗記できるわけもなく、
ただただ受け入れがたい現実を噛みしめてるばかりです。
付近の人が倒れている私を見て、救急車を呼んでくれました。
病院で診察してもらい、戻りたくない警察署に3時間で戻る羽目になりました。
破壊された自転車やアイテムのため、再びポリスレポートがいるのです。
しかし今回は犯人が逃亡したため、警察も現場検証から渋っています。
インドネシアでタクシーにはねられ前歯を折ったときのように、
ワイロが必要なようです。
事件発生後から7時間、ようやくポリスレポートを受け取ることが出来ました。
幸い、体は打撲と擦り傷で済みました。
しかしボクの体を守ってくれた自転車はそうはいきません。
キャリアが折れ、フレームとホイールに歪みが出ているようです。
ここテヘランでの不本意な滞在が長引きそうです。
2010年4月にインドネシアのジャカルタで交通事故で前歯2本を失い、自転車半壊。
2010年6月にタイのバンコクでチフスに羅患し4日間入院。
2010年8月に中国の昆明から広東行の列車の中で盗難被害。
2010年11月にインドの田舎町でオートバイにはね逃げされ、軽傷と自転車破損。
2010年12月にインドのデリーにてデング熱に羅患し5日間入院。
2010年12月にインドデリー安宿にて盗難被害。
2011年8月にトルクメニスタンのセラフスにて集団窃盗団に遭い、盗難被害。
2011年8月にイランの田舎町にて強盗被害。
2011年8月にイランの田舎町にて交通事故で、軽傷と自転車破損。
こうしてみると、自分の旅のアクシデント歴も見栄えのある
箔がついたものになってきました。
「これであとはなっていないのは、マラリアと強姦くらいかー(笑)」
なんて風に全て過去のものは、今となっては大変いい旅のネタ話となっています。
しかし今回は9日間で3回。
さすがにこの立て続けで、人も車も旅も不信感と恐怖感でいっぱいです。
町に出るのも正直ビクビクしています。
自分はヒツジで、一歩外に出ればそこは狼の巣のように感じます。
現にサイクルパンツ姿がいけないのか、とにかく股間や体を触ってくる男性が多いです。
ラマダン中の禁欲生活も影響しているのかもしれません。
でも私は諦めません。
夢を諦めません。
旅を続けます。
「毒には毒を持って制す!」療法で、徐々に人と接触していきたいと思います。
今後の日程は、8月25日~9月8日辺りまで
テヘラン、カシャーン、イスファーン、ヤズド、シラーズの
観光地をバスと電車を使ったバック パッ カーに転身して観光します。
そして9月14日のイランビザの切れる日に23ヵ国目の
アゼルバイジャンにアスタナラの国境から入ります。
その後、24か国目のグルジア、25か国目のアルメニア、
26か国目のナゴルノ・カラバフ、27か国目のトルコには
10月上旬の到着を予定し てい ます。
トルコのイスタンブールに行けば、長く3年4か月に渡った
アジア横断が達成されます。
世界一周への道のりはまだまだ長いようです。
(つづく)
(文・写真:小口良平)
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