雑談インタビューはいよいよ最終回。
北欧と日本でのトレイルでの文化の違い、今回伝えたかったこと、
これからのことなどどどどどーんと語ってもらいました!
(文章・写真=池ノ谷英郎/聞き手=山本喜昭)
山本>
これからまたどこかへ行く予定はあるのですか?
卓也>
今のところ具体的な予定は無いんですけど、
こうやってトレイルを歩くのは一生に一度のことではないな、
とは思っています。
望>
もしまた行くとしたら、もうちょっとこういう装備を
持って行きたいとか、もうちょっとゆっくり行きたいとか、
やり直したい部分はありますね。
トレイルの途中で年配の方とか1人で歩いている女性が
いたりしたんですけど、それは別に特別なことではないんです。
ゆっくり行こうと思えば行けるし。
重要なのは速く歩くことでも長い距離を歩くことでもなく、
このフィールドの中でいかに長い時間を過ごせるかというのを
楽しんでいたので、今度行くとしたら例えばお気に入りの本を
持っていくとか、現地でベリーをたくさん摘めるので
砂糖を持って行ってジャムを作って食べたりとか、
そういう余裕をもっと楽しみたいな、と思っています。
せっかく出会えたトレイルなので、
途中寄れなかった小屋も使ってみたり、サウナに入ってみたりとか、
そういうのもあります。
山本>
違う文化に触れたということですね。
山の中でのこれまでと違う過ごし方、みたいな。
望>
そうですね。
卓也>
日本ではない過ごし方ですね。
日本だとあの山の頂上に行くんだとか、
どのくらい長く歩きましたとかですけど、
向こうではそのエリアをどれだけ楽しめたかが基準なんです。
山本>
いいですね〜それ。
だからすれ違う人とも「どこまで行くの?」とか言うより
「(今日で)何日目?」と言う挨拶をするんです。
そうやって私たちが「4日目です」と答えたら
「私は54日目だよ」という強者のおじさんもいたりして、
何日この場所にいるかを自慢するんですね。
だから今後山に行く時もハアハアゼエゼエ行くんじゃなくて、
ゆっくり小屋を楽しむとかテントを張って
ゆっくり過ごすとかがいいなって思うんです。
でも、日本だとそういう場所がなかなか無いんですよね。
「今日は疲れたからここで寝ちゃおう」とかはまず出来ないし。
そういうゆっくりした文化はすごく素敵だなと思いましたね。
山本>
なるほど、同じ場所を再び訪れるのもいいですね。
また違うものがいっぱい見えてくるでしょうしね。
望>
「前はこうだった」とか今回の旅を思い出したいというのもあります。
日本の山でも一度登った山を今度はゆっくり歩いてみるとか、
それこそトレイルランニングでしか行ったことが無い場所を
時間をかけて2〜3泊して行ってみるとか、
そういう風に考え方が変わりましたね。
山本>
この旅について「これは言っておきたい!」ということが
あればお願いします。
卓也>
と言うか、これまでハイキングで何があったかと言う話を
1つもしてないんですよね。それは良いんですかね?(笑)
山本>
僕的にはそういうことはほとんど聞かないです。
そういうことは他のメディアで話していると思うので、
この旅を体験した人として「これなんだよね!」みたいなのがあれば
お願いしたいです。
卓也>
それは難しいですね(笑)うーん…何かある?
望>
うーん…
この旅に出る前に日本で1泊2日とか2泊3日とか
長くて3泊4日くらいのキャンプを続けていて、
多少なりともいくつかの山に行ったんですね。
ちょうどその頃に
「日本でそんな軽い(軽量にこだわった)装備は必要ないんじゃないか」
みたいなことがネットでも議論になったことがあるんですけど、
そこをあえて軽量化にこだわったことが今回の旅で生かされたんです。
山本>
なるほど。
卓也>
人間いつロングトレイルに行くか分からないから、
トレイルが好きだったらそれ(装備ひとつひとつの軽量化)は
やっておいた方がいいし、日本で起こることが全部こなせれば
海外のどこに行っても通じるので、
「日本のハイキングだったり、日本の山ってすごくいいよ!」
というのを強く言いたいんです。
もちろんロングトレイルにはロングトレイルの良さがあって、
北欧にもアメリカにもそれぞれ良さがあります。
当然、海外には日本では見られない風景が見られるし
興味深いこともいっぱい起きるんですけど、
それと同じくらい日本の山はすごく良いので、
それはぜひ日本人として大切にして欲しい、
というのが今回一番言いたいことかも知れません。
望>
うん、そうなんだよね。
卓也>
トレイルの中でしていたことが全部日本の山で
やっていたことそのままなので、そこで特殊なことが
起こるわけではないんです。
望>
普段使っているものを持って行ったりしていましたし。
山本>
だから日常に帰るのも早かったんですね。
卓也>
旅に出る前に白馬岳に行ったんですけど雨と風が
ものすごかったんですね。
それで実際に持って行く装備をちょっと
グレードアップしたりしたんです。
だから日本の方がよっぽど条件が厳しかったりすることもあるので、
そういうのは大切な体験だと思いますね。
そこに行ってから旅が始まるんじゃなくて、
日本からそこに行くまで全部つながっているんですよ、
というのを言いたいですね。
山本>
それは面白いですね。
どうですか、今初めて聞いたダンナさんのお話は(笑)
いやぁ〜(笑)
山本>
白馬岳には一緒に行ったんでしょ?
望>
一緒に行きました。
練習を全然していなかったので、とりあえず旅で持っていく
装備をすべて持って行こうと話していて、
お天気が悪かったけどあえて行ったんです。
天気が本当にひどくてテントの中に浸水するし、
風も強くて朝すぐに畳まないとダメなくらいの強風になったりして
すごい怖い思いをしたんですけど、それを経験していたので
ラップランドでは本当に怖い思いはしなかったんですね。
そういう面で日本での経験がすごく役に立ったんです。
山本>
なるほど、それはいいですね。
望>
あと、トレイルで出会った人に「何で日本から来たの?」って
聞かれることもあったんですけど、
「日本にロングトレイルが無いんだ」という話をするとともに
「でも日本には富士山と言う山があったり、
北アルプスとか3,000m級のきれいな山とかがたくさんあるんだよ」
という話も出来たので、あまり高い山が無い所しか
歩いたことが無い人たちが日本の山を見た時にはどう思うのかな、
というのは感じましたね。
だからちょっとガイドの仕事とかしてみようかなとか思ったりしたんです。
山本>
向こうの人を日本の山に連れて行ったりもいいですね。
卓也>
海外に行くとみんな同じことを考えると思うんですけど、
日本のことを話せるように準備しておかないとダメですよね。
山本>
そう言いますよね。あまりにも自分の国のことを知らないことに気づく、
みたいな(笑)
例えば海外で「東京に行ったことがあるんだよ」
と言われた時に「ふぅ〜ん」しか言えなかったり、
本当なら東京のどこに行ったのかとか、どう思ったとか
聞けないといけないのに、それが全然出来なかったり(苦笑)
望>
でもまさかノルウェーやスウェーデンの山の中でたまたま会った人が
日本のことを聞いてくるとは思わなかったので、そこは予想外でしたね。
でも交流を持ちたがる人は結構いたし、そういう場所で
会った人って思い出にも残るのでもっと積極的に交流したいな、
とは思いましたね。
現地で何度も抜きつ抜かれつしていた人に勝手にあだ名をつけて
勝手にライバル視していたりとかはしてましたけど(笑)
卓也>
不思議とね、現地で中国人に間違われたことが1回だけで、
みんな初めから「日本人でしょ?」って話し掛けてくることが
多かったですね。
他にも韓国人とか中国人もいたと思うんですけどね。
服装が違うのかちょっとした顔つきが違うのかは
分からないんですけど。
望>
森山(伸也)さんの本の影響でラップランドに行く人が増えていると
聞いていたんですけど、トレイルでは日本の方には会わなかったですね。
山本>
今後はどのような活動をしていくんですか?
夫婦で小屋をやっている方もいらしてすごくお世話になったので、
そういうのも出来たらいいな、とは思いましたね。
夫婦でいると安心するんですよね。
おじさん一人でやっている小屋ではえらく高くパンを
売りつけられたりしたので信用ならない!と思ったのですが、
夫婦でやっているところはこまやかな気配りをしてくれたりしたので。
そういうのも含め、またいろんなことをしてみたいなと思いますね。
今回こういう旅をしてきたけれど、特別なことをしたとは
思っていないんですね。
皆さんからは「すごいね!一生に一度は経験してみたいね」
とか言われるんですけど、私たちはそうは思っていないんです。
行きたいと思った方はとにかく行ってみて欲しくて、
私たちはそのお手伝いが出来たらいいなと思っています。
例えばお金はどのくらい用意するとか、現地での食べ物の調達はどうするとか、
あと、体力のない私でも行けたよ、とか、そういうこと伝えたいですね。
山本>
結構今回、「伝えたいモード」じゃないですか。
伝えたくなったモチベーションはどこから湧いてきたんですか?
旅が終わってから?行く前から?
卓也>
伝えたい意欲としては最初から「行くからには」というのはありましたね。
でも、自分たちでは特別だとは思っていないけど、
他の人から見るとちょっと特別な体験をしてきたわけで、
それがすぐに日常生活に戻っていくのはどうなんだろうね?
という気もするし、それこそお金を使って行ったわけだから
それを皆さんに伝えることで満たされるというか…
たぶん欲だと思うんですけど、そういう報告とかをやった方が
いいんじゃないかなって思うんですよね。
山本>
いいですね、正直で。
卓也>
あまり好きじゃないんですよ。社会の役に立とうとか(笑)
望>
行っている間は毎日景色が変わったり、
いろんな体験が出来たりするのはみんなに話したいね、
というのは歩いている途中でも話してましたね。
山本>
伝えるということをどこかにインプットして行動していると
情報の入り方が違うじゃないですか。
例えば日記を書こうと思って歩いているのと書くつもりが無いで
歩いているのでは違うと思うんですよ。
望>
準備の段階からちゃんと記録を残しておきなさい、と言われたので…
山本>
ダンナさんから?
望>
そうです。
「今日から準備を始めます」「ザックを買いに行きました」とか(笑)
卓也>
よくブログとかで「行きました」「楽しかったです」とか書いてあっても、
「だから何?」って感じなんですよね(笑)
そうじゃなくってって感じで(笑)
他の分野に比べてハイカーのブログってすごく文章が長いんです。
自分の記録にもなるし、自分が行く前に調べたり様子をうかがうのに
苦労したのでそういうのは残しておこうという人が多いんでしょうね。
そういうのを還元したいという思いがあって、
だから何がいくらしたとかは細かくデータを残しています。
ただ、プロではないのでそこでお金を取ろうという気は無く、
みんなで共有するために書くように記録を取ろう、とは言いました。
山本>
それはすばらしい。
これからもぜひ、ハイキングの道を極めてどんどん情報を共有して
いってほしいですね。
今日はありがとうございました。
(おわり)
第一回はコチラ
続いて第二回。
そして前回、第三回。
松本夫妻のプロフィールはコチラ