北欧ラップランドのロングハイクの旅をされた松本夫妻に訊く雑談インタビューの第三回。
旅はなるようになる、そんな話が垣間見れました。
ウルトラライトハイキング、やってみたいです。
ではどうぞ!
(文章・写真=池ノ谷英郎/聞き手=山本喜昭)
山本>
夜まで明るいというのは安心材料ではありますよね?
卓也>
ライトをあまり使わなかったですからね。
望>
ヘッドライトと予備で持って行ったライトは使わなかったです。
卓也>
なので安心して歩けていました。歩いている間は暗くなることが
無かったので、その点では楽でしたね。
山本>
何か不思議体験とかは無いんですか?
残念ながら…。ネズミに顔を踏まれるくらいですか(笑)
山本>
ハハハ(笑)
卓也>
いやあほんと不思議体験は無かったですね〜。
たとえば1日歩いて、テントを張ってマットを敷いて
シュラフを敷いたらもう横になっているので、
家の居間にいるのと何ら変わらないんです。
それこそ日常的すぎちゃって特別な環境にいる気がしないんですね。
なのであまり不思議体験も無く、それこそテントの中にいると
奥多摩と何ら変わらないんです。
望>
まあ、そうですね(笑)
卓也>
(テントを)出ると、
「ああ、そうか、今はこんな所にいたんだ」みたいな。
そういう感じですね。
望>
ラップランドと言えばオーロラが見えると言われているんですけど、
今回はオーロラを見に行ったわけではないので見えたらラッキー
くらいに思っていたんですね。
で、ふと夜テントを出たらオーロラが見えた日があって、
それは不思議体験と言うか…
山本>
貴重な体験でしたね。
望>
はい、貴重な体験でした。その日から2〜3回続けて見えました。
卓也>
カメラを出して撮ろうとしたらカメラの設定がオートだったので
暗過ぎてシャッターが切れなくて…。
「あー!」って言いながら設定を直している間に
寒くてカメラの電池が切れちゃって(笑)
望>
きれいなオーロラが見えているのに撮れない。
でも、眠いし、いっか!ってなって、
なので残念ながらオーロラの写真は無いんです(笑)
卓也>
オーロラを楽しみにしている人には申し訳ないんですが(笑)
望>
オーロラをわざわざ見に行く人たちもいるのに、
こうやって偶然見えちゃってラッキーでした。
不思議体験は無かったけど、ハプニングはいっぱいありましたね。
山本>
そのハプニングを乗り越える時に「偶然こういうことがあった」とか
「こういう人に助けられた」とかみたいなこともあるんじゃないですか?
私たちはあまり積極的に人に話しかけに行くタイプではないんです。
英語も堪能ではないですし。
トレイルで会う人ってものすごく少ないんです。
1日に1組、2組程度で、会った人がすごく話し掛けてくれるんです。
そして日本人がめずらしいみたいで
「何でこんな所まで来たんだ?」って話し掛けてくれるんですよね。
で、忘れないようにその日に会った人たちのことを
日記にメモしておくんです。勝手にあだ名を付けて(笑)
卓也>
中盤で結構メジャーなルートと重なる部分があるんですけど、
山小屋に結構いろんなものが売られているので、
途中から次の補給地までの食料を買うのではなく、
歩きながら先々で食料を買い足すようにやり方を変えたんです。
後半3分の1もあらかじめ食料が売られていることは
調べてあったんですけど、営業時間までは調べていなくて、
残り3分の1の北半分は管理している人が
12時から18時まで小屋を閉めちゃうというシステムだったんです。
山本>
あ、昼間は閉まっているわけですね?
卓也>
そう。
で、我々が小屋に着くのが大体お昼(12時)ちょい過ぎなので、
閉まっているから買えない。
5日目くらいの時に残りの食料が2日分しか残っていなくて
買い足したかったんですけど、小屋を3軒まわっても
どこも閉まっているんです。
そこにウォーキングをしている女性がいたり、
その前の小屋にもジョギングしている女性がいたりして
その方が管理人だったんですけど、そこには飲み物はあったけど
食料は売っていなくて。
望>
「何か飲み物を売ってくれ」と言ったら「川の水を飲めばいいじゃない」
って(笑)
卓也>
管理の人かと思ったらそこのゲストの方だったんです。
山本>
泊まっている人?
望>
はい。で、その人に「どうしたの?」って言われたので
「食料を買いに来たらここの小屋の方が6時まで帰ってこないんですよね」
って言ったら、
「そうよ、6時まで帰ってこないけど食料を持っていないの?」って
聞かれたので
「いや、持ってはいるんだけど、ここで買い足そうと
思っていたので困っているんです」って答えたんです。
そしたら「私たちは明日ヘリコプターで帰るから、
私たちが持っている食料をあげるわ」って
言ってくれて。
そうこうしていると「それは大変だ!」って感じで
ダンナさんも出てきてくれて。
親身になってくれたんですね?
望>
とっても親身になってくれたんです。
私たちが買うには高価な1食1500円くらいする
パックを2つ出してくれて「これしか無いけどどうぞ」
って言ってくれたので、
「いやいや、そんないただけないです。次の小屋に言ったら
買えるかもしれないし」って答えたんですけど、
「いいからいいから」って。
なので「じゃあお金は払います」って言ったら
「あげるって言ってるでしょ!!」みたいになってきて(笑)
「親切はちゃんと受け取りなさい、ギフトだから」って言われて
「ありがとうございます」って受け取りました。
あげると言われているのに断るなんていうのは失礼なんでしょうね。
でもこちらとしては「1500円もする高価なものを2つもいただけません」
ってなっちゃうんです。お金の心配ばかりしていた時だったので(笑)
山本>
なるほどね。
望>
で、ありがたくそれを受け取って、何かお礼をしたいと言ったら
ご主人が
「じゃあ一緒に写真を撮らないかい?メールアドレスを教えるから、
日本に帰ったらそのアドレスに写真を送ってよ。
それだけでいいよ」って。
「じゃあ連絡先を交換しましょう」ということになり
メールアドレスを書いてもらったんです。
「それかいつか日本に行くかもしれないから、
その時は世話になるからね」って一緒に写真を撮って、
という交流がありました。
で、帰ってからすぐに写真をメールで送ったんですよ。
お名前を聞いていたので調べてみたらストックホルム大学の
教授さんで、メールを送ったらすぐにお返事を下さって、
「来年仕事で日本に行くことになったから、その時に会えたらいいね」
っていうやりとりを何度かしたんです。
こちらから積極的にアプローチをしなくても
そういう出会いがあったのがうれしいなって思いましたね。
山本>
下手したら誰ともしゃべらずに行っていたかも知れないですもんね。
卓也>
そんな感じでハプニングを乗り越えました(笑)
山本>
”食糧”危機を乗り越えた(笑)
卓也>
どれだけ必死だったかってことですよね。
望>
何だか小っちゃい日本人が叫んでるって感じで(笑)
卓也>
それで思い出した。もう一つあるでしょ。バスのやつ。
望>
第1補給地になる最初の行程の190㎞を歩き終える日の
ことなんですけど、その時私が足を痛めていたので
最後の10㎞はバスを使おうって話になったんですね。
国道に出ればバスが通っているというのを途中で出会った人に
聞いていたので道に出たんですけどバス停らしきものが無いんです。
「無いじゃん、バス」「ちょっと歩いたらあるかもしれない」って
思って歩いたらバス停があったんです。
でもバス停だけで時刻表も何も無いんです。
バスが来る気配も無いのでとにかく…
山本>
それで(バスを)待ったんですか?
望>
いや、進んだんです。
で、大きいホテルみたいな建物がすぐ近くにあったので、
そこに行けば何かしらの情報があるんじゃないかと。
卓也>
リゾート地になっていたんです。
山本>
あー、なるほど。
あるだろう、と思っていたら、そこにもバス停みたいなものはあるけど
インフォメーションとかは無く…。
そしたらバスが来たんです!
「あっ!バス来た!」「停まって!」って
走って行ったらバスが停まったんです。
私たちはアビスコってところに行きたかったので
「I want to go to Abisko!!」みたいなことを言ったら
「いいから乗れ乗れ!」って言ってくれて、
「お金はいくらですか?」「いいから後で後で!」って感じでした。
歩いたら2〜3時間かかるところをバスで15分くらいで着いたんですけど、
バスを下りるときに「ありがとうございました。お金を払います」って
言ったら「いいから下りろ」って言われて(笑)
山本>
かわいそうに思われたんだ(笑)
望>
後で調べたらそのバスは空港からの送迎バスで、
たぶんそんな短い区間で人を乗せることは無いバスみたいなんですね。
でも道で必死に叫んでいる小っちゃい人がいるから
乗せてくれたみたいで(笑)
山本>
親切で乗せてくれたんだ。
望>
むしろ面倒くさい、みたいな(笑)
卓也>
システム的にはそういう風に人を乗せていいバスなので、
特別なことではないんですけど、でも無料というのは…
やはり面倒くさかったんでしょうね(笑)
山本>
へぇ〜
望>
そういうこともあり、「何とかなるな」っていうのは思いましたね。
必死で何かを言えば伝わるんじゃないかと。
山本>
以前インタビューした歩く旅人の福元ひろこさんも言っていましたけど、
彼女も「何とかなる」って言っていましたね。
困った時は誰かが助けてくれる、みたいな。
望>
「何とかなる」と思ったのは、そもそも行きの飛行機で
乗り継ぎに遅れたんですね。
飛行機が遅れて乗り換えの便に乗れなかったんですけど、
それでも何とかなりました。まあ大変でしたけど(笑)
卓也>
これから先もこんなのが続くのかって思いましたね(笑)
山本>
初っ端からつまずいた感じですね(笑)
望>
あっちこっち走り回って、あっちの人に聞いて
こっちの人に聞いて言われた方に行ってみたら止められて…って
いろいろあったんですけど、結果的に何とかなったんです。
荷物もなかなか出てこなくて慌てたんですけど、
その点、義姉さんはすごく慣れていて、「
そこで騒いでもしょうがないからとりあえず帰ってきなさい。
荷物は後で出てくるからご飯を食べて寝なさい」と言われて(笑)。
その時「あ〜、何とかなるんだな」って思ったので、
帰りに飛行機のトラブルで乗れなかった時も「来た(笑)」って感じで。
だからもう慌てず「どの飛行機なら乗れる?」って落ち着いてましたね。
飛行機乗り継ぎとかではトラブルに遭ったけど、
トレイルを歩いている時はそういう怖い目には
まったく遭わなかったですね。
山本>
さっきの人工物の怖い話と同じことですよね?
卓也>
人が絡んでいる方が怖い、不安な目に遭う(笑)
望>
(トレイルを歩くのは)自分で進むだけなので、
何かに乗せてもらうとか乗り遅れるとかも無いですし。
ただ、最後のゴールの日までのスケジュールを
のんびり考え過ぎていた部分があって、
もし当初の予定通りだったら小屋も全部閉まっていた
可能性はあったんです。
卓也>
たまたま距離が短い方を選んで早く着いたから良かったけど、
ゆっくり歩いていたら補給も全く出来ない状態になっていたかも知れないです。
望>
あと急激に寒くなったので、結果的に1週間早く終わって良かったです。
(つづく)
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