[その7「 ロンドン路上パフォーマンス生活」]
南米大陸横断7000kmの旅「Dancing Across the Amazon」に至るまでを語った宮川竜一さんの手記の第七弾。
ヨーロッパに渡った宮川さん。
ロンドンでは路上パフォーマンス生活にチャレンジ。
はてさて、その顛末や如何に!?
(本文:宮川竜一)
ドイツでは、査証の期限3か月間、目いっぱい遊んだ。
シュピーゲルを通して、僕のビデオブログを見てくれているドイツ人はたくさんいた。
彼らの多くは、僕にフェイスブック上で友達リクエストを送ってきており、彼ら全員と友達になっていた。というわけで、僕にはドイツの地を踏む以前から、ドイツ中に知り合いがいたのだ。
お陰で3か月間、彼らの家を転々としながら、結局一晩もホテルに泊まることなく旅をすることが出来た。
海外で羽を伸ばしているとき、僕は密かに考えを巡らせた。
そして、夢を実現させることを、現実問題として考え始めていた。
「このまま、アマゾンへ行っちゃえばいいんじゃないか?」
「海外で稼ぎ、その足で南米へ飛んでしまおう!」
そのことを考え続けていると、次第にそのアイディアが現実味を帯びてくるように感じられた。
「そうだ、僕は、お金無しで旅を始め、どこまでやれるか試してみたかったんだ!」
「それから、海外で路上パフォーマンスをしたいと思っていたんじゃないか!?」
その後、僕はイギリスはロンドンへと飛んだ。
まさに、浮浪人になったような気持だった。
大学を出た後、就職活動から逃げ出し、まともな生き方を捨てて、世界で生きる。
このときの自分は、大きな不安を抱えていたと同時に、羽の生えた大きな白鳥、自由そのものだった。
ロンドンでは、お金を使わずに生活を始めた。
野宿生活をしながら路上で何かしらの芸をやり、通行人にもらった投げ銭だけで生活をどこまで向上できるか試してみたかった。
それまでお金に苦労したことが無かった僕は、お金など、いらないのだと本気で思っていた。
お金が無くても、旅は出来る。お金が無くたって、やりたいことは出来るんだ!
今回の旅で僕はそれを証明するはずだった。
結果は、惨敗。
路上で魅せる芸をまだ会得していなかった僕が、楽器を道端で弾いたところで誰を喜ばせることもできなかった。
路上での生活、精神的な疲労を抱えたうえで人を笑顔にするなど、無理な話だった。
楽器を弾きながら自分が笑顔になることすらも、非常に難しいことだった。
物乞いよろしく同情心からでも投げ銭が欲しいと思い、また他のホームレスと一緒に炊き出しに行ったりしたが、彼らの、野良猫のように食べ物を奪い合う光景を見て、自分の居るべき場所じゃないと思った。
その後、僕は必死でアルバイトを探した。
もちろん、就労ビザは持っていなかった。ひと時代前にヨーロッパで違法就労していた人がいるという情報はあったが、今の時代にでも違法でも働かせてもらえるものなのか、試してみたかった。
日系の求人誌を読み片っ端から連絡し、何度も断られ諦めかけていた頃、市場にある日本人経営の日本食の弁当屋さんに拾っていただいた。
オーナー曰く、この市場はユダヤ人たちが牛耳っているため、警察は一切介入しない、
ここで働いている中国人は殆ど違法とのことだった。
ロンドンへ来て90日が経った頃、初めて自分の部屋を持った。
小さな部屋を、日本人の男の子とシェアしたのだった。
市場でのアルバイト以外の時間は、引き続き路上で楽器を演奏した。
仲良くなった日本人のディジュリドゥー(オーストラリアの、長い木の棒をくりぬいた楽器)の奏者と仲良くなり、毎晩のように一緒に演奏し、投げ銭を山分けした。
そのうち、投げ銭の方がアルバイトよりも稼げるようになると、アルバイトはやめて路上一本で生活をした。
ロンドンで最も治安の悪い地域の、無限に出てくる床虫(ベッドバグ)の劣悪な居住空間に住み、楽器の演奏や、子ども相手に風船を売ったりしながら、日銭を稼いで過ごした。
このころ、朝目を覚ましての第一声は、「この生活、面白いなー!」だった。
誰にも口出しをされず、就職だとか仕事だとか、そういうこととは無縁な生活だった。
その後の自分の人生に無責任な自由が、とても気持ちが良く感じられた。
ただ、ロンドンでの生活の5か月が過ぎたころ、当初の目標では貯まっているはずのアマゾンへの旅費は、未だにゼロだった。
僕は、今回の旅が完全なる「失敗」に終わったことを認めた。
敷かれたレールの上を歩いていたら、確かにこういう失敗は無かったかもしれない。
ただ、今回の失敗は今後の人生に生きる。他人の意見を聞かずに、根拠のない自信から自分を試し、自分の無力さを思い知った僕は、もう同じ過ちを繰り返さない。
その後ドイツの知人宅に戻り一か月ほど悩んだ末、帰国を決意したのだった。
(つづく)
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その4はコチラ
その5はコチラ
その6はコチラ
<宮川竜一さんプロフィール>